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PubliCoジャーナル

コレクティブ・インパクトの米国視察レポート②

米国NPO情報

2017.6.23

Writer長浜 洋二

コレクティブ・インパクトの米国視察レポート第2弾です(第1弾はこちら)。今回の視察のメインでもある、コレクティブ・インパクトに特化した年次イベント『2017 COLLECTIVE IMPACT CONVENING』の様子をご紹介します。

 

 

あらためて、コレクティブ・インパクトとは、異なるセクターにおける様々な主体(行政、企業、NPO、財団など)が、共通のゴールを掲げ、お互いの強みを出し合いながら社会課題の根本解決を目指すアプローチのこと。その5つの特徴として、(1)共通のアジェンダ、(2)共有された評価システム、(3)相互強化の取り組み、(4)継続的なコミュニケーション、(5)取り組みを支える組織があげられており、CI実践の前提条件として、(1)影響力のある推進者、(2)資金力、(3)課題解決の緊急性が必要とされています。(詳細はこちらから)。

 

 

このイベントは、コレクティブ・インパクトに関するコミュニティ、 Collective Impact Forum(コンサルティング会社のFSGとシンクタンクのAspen Instituteが運営)が主催するもので、5月23日から25日の3日間、マサチューセッツ州ボストンで開催されました。米国内40州、全世界20カ国から500人以上の財団、行政、企業、NPO関係者らが参加しています。米国外からは、私たち日本からの参加者をはじめ、オーストラリア、ブラジル、カンボジア、中国、フランス、ドイツ、デンマーク、インド、英国、メキシコなど、75人にのぼります。2011年にJohn KaniaとMark KramaerがStanford Social Innovation Reviewで論文「Collective Impact」を発表してから、米国では既に6年が経過していますが、その間、世界各国へその取り組みが広がっている様子が伺えます。

 

 

イベントの内容は、大会場での講演、個別テーマごとの90分のセミナー/ワークショップ(28本)、60分のツールセッション(12本)、30分のミニトークセッション(9本)、1対1のコーチングセッション、ボストン近隣の視察ツアー、交流会などで構成されています。

 

 

セミナー/ワークショップでは、キャパシティ・ビルディング、コミュニティ・エンゲージメント、企業の巻き込み、社会的公平性(equity)の確保、リーダーシップ、評価、データ利用などのテーマが取り上げられました。以下、ご参考までにセミナーのタイトルをご紹介しますが、これを見ただけでも、様々な分野や地域へコレクティブ・インパクトの取り組みが広がっており、新しい事例やそこから得られた知見が蓄積されていることが分かります。

 

<セミナー/ワークショップ>

■Building a Regional Equity Agenda for Boys and Men of Color

■Ready, Fire, Aim? Aren’t There Better Ways to Develop Collective Impact?

■Structuring and Funding a Multi-Convener Model for Collective Impact

■Sustaining Collective Impact

■The Bold Goal: Using Community Driven Data to Achieve the Common Agenda

■The Role of Business in Collective Impact: A Journey in Community Health Transformation

■We Are the Champions: The Quiet Leadership Needed to Catalyze Collective Impact

■“We Made a Promise”: Community Leadership in Promesa Boyle Heights

■Breaking It Down: Systems Thinking Tools to Advance Racial Justice

■Clubhouse-to-Career Pathways to Success: Best Buy and The Clubhouse Network

■Collaboration, Communication, and Engagement: What This Looks Like in Successful Collective Impact

■Collective Impact and Systems Change: Lessons From Two National Evaluations

■Connecting the Dots: Visualizing Data to Highlight Organizational Dynamics

■Engaging Systems, Funders & CBOs to Take on New Populations

■Harnessing the Power of Your Smaller City to Make Collective Impact Work

■How to Put Young People at the Center of Collective Impact

■Keeping the Collaborative Committed to the Cause

■Roadmap to Peace Initiative: A Community Perspective on Collective Impact

■Trauma-Informed Resident Leadership as the “Soul” of Collective Impact

■Using an Equity Focus to Spur Collective Impact

■Using Data on College Completion to Drive Institutional Change

■Using Qualitative and Quantitative Data to Drive an Equity Agenda

■Achieving Equity: Serving the Underserved in Locations and Times of Scarcity

■Collective Impact Without Borders

■Community Engagement, Leadership Pathways, and Co-Creation

■Sitting at the Head Table: Parent Power in Portland, Oregon

■The Architecture of Transitioning from a Collaborative to a Collective Impact Initiative

■Towards a New Urban Practice: Between City Halls and Collective Impact

 

私が参加したセミナーの1つが、「Sustaining Collective Impact」。コレクティブ・インパクトの事業を始めた後、どうやって継続していくかという内容です。まずは関係者間で“sustainability”の定義について共通理解を得た上で、あるべき持続可能な状態に対するギャップを明らかにし、そのギャップを埋めるための最適な施策を選択し、実行、評価するという手順が紹介されました。そして、持続力のある事業を行うために、主たる意思決定者やボランティアの理解とサポート、十分なリーダーシップや資金、コミュニケーション、コミュニティの関係者間に環境の変化に対応する準備があることなどが前提条件として指摘されました。

 

また、持続力のあるコレクティブ・インパクトの持続可能性を実現するための7つの要素として、(1)強力なリーダーシップ、(2)効果的な協力関係、(3)コミュニティに対する理解、(4)成果評価と結果の共有、(5)資金計画、(6)スタッフの巻き込みと啓発、(7)コミュニティの対応が挙げられていました。

 

 

参加した30分のミニトークセッション、「Collective Impact Feasibility Framework」では、コレクティブ・インパクトが唯一の社会課題解決の手法ではないことが述べられていました。取り組む社会課題を選定した後、その課題に影響を及ぼすプレイヤーが複数いるかどうかを確かめ、その上でコレクティブ・インパクトが最も適したアプローチかどうかを見極めます。最終的には、(1)リーダーシップの存在、(2)資金源(最低12ヶ月分)、(3)協力関係の実績、(4)課題解決に対する緊急性など、コミュニティ側でコレクティブ・インパクトを実践するに足るだけの準備ができているかが判断の根拠として問われます。

 

 

ツールセッションでは、コレクティブ・インパクトの実践に有用なモデルやフレームワーク、マニュアル、データの分析ツールなど、いずれも実践者がすぐに実務で活用できるようなものが紹介されました。ツールに特化したセッションが行われるあたりは、まさに実用性を重視する米国ならではといった印象を受けました。昨年参加した米国ファンドレイジング協会主催の『2016 International Fundraising Conference』でも感じましたが、様々なベンダーが凌ぎを削りながら独自のツールを開発し、一大市場を形成します。コレクティブ・インパクトに関しても、今後、様々なツールが登場し、市場が育っていくことでしょう。

 

<ツールセッション>

■A How-To Guide to Appreciative Inquiry

■Actor Mapping

■Aligning Resources for Collective Impact

■Change How You Collaborate: Tools and Strategies for Lasting Impact

■Designing a Powerful Shared Intent

■Mapping Critical Knowledge in Your Ecosystem

■Results-Based Meetings that Work

■The Eco-Cycle Approach

■Using Data to Build Roads to College in a Collective Impact Opportunity Youth Collaborative

■Why Play Nice in the Sandbox? Demonstrating Value in Collaboration

■A Collaborative Approach to Creating Age Friendly Communities in New Hampshire

■Between Results and Racial Equity: Anti-Racist Approaches to Performance Accountability

 

私が参加した「Change How You Collaborate: Tools and Strategies for Lasting Impact」では、実際にツールを使ってステークホルダー(利害関係者)の整理を行いました。目指す成果を真ん中に記載するとともに、行政、企業、財団、NPOなど、その成果を創出するために必要な関係者を洗い出します。現状、既に認識できている関係者を単に書き出すのではなく、あくまでも目指す成果を基点におきながら、協力・提携が必要な関係者を書き出していきます。ゴールから起算する“バックキャスティング”の考え方と同じと言って良いでしょう。

 

 

2日目の朝には、ハーバード大学ケネディ・スクールのMarshall Ganz教授の講演もありました。2008年の米国大統領選挙でオバマ大統領の選挙参謀として、パブリック・ナラティブとコミュニティ・オーガナイジングの手法により、初の黒人大統領を誕生させたことで知られています。定量的なデータ重視の印象が強いコレクティブ・インパクトですが、草の根レベルでの人々やコミュニティの関係構築をベースとした市民運動との繋がりを意識していることはとても興味深いです。

 

 

イベント開催中は、YouTubeで各日の講演をライブ中継し、どこからでも閲覧できるようになっていました。また、スマホのアプリを事前にダウンロードすることで、当日はわざわざ配布された資料を取り出して確認しなくても、手元で簡単に参加するセッションの内容を確認することもできました。

 

 

2011年にコレクティブ・インパクトという概念が紹介されて以来、既に6年が経過。この間、2016年には、カナダの Tamarack Instituteが「Collective Impact 3.0」を発表するなど、コレクティブ・インパクトも進化し続けており、新しいフレームワークやツールも登場しています。日本はこれからコレクティブ・インパクトを実践しようとしている段階ですから、成功も失敗も含め、先行事例を学ぶことで倍以上の速さでキャッチアップできるはずです。

 

今回の視察をつうじて、あらためてコレクティブ・インパクトの肝はデータにあると痛感しました。共通のアジェンダを設定するにも、客観性・妥当性のあるデータを根拠にしなければ合意形成するのは困難です。決して声の大きな人が決めるわけではありません。

 

実際にプロジェクトを組成するにあたっても、データがないと、いつまでに、どの程度まで実施するのかというマイルストーンも立てられません。また、継続的なコミュニケーションを行う上でも、データがないと進捗状況を確認することができず、そこからどのように軌道修正をしていくかも分かりません。だからこそ、コレクティブ・インパクト事業では、事業開始に先立ち、しっかりと時間をかけて実態の把握を行うことが大前提となっているのです。

 

そして、コレクティブ・インパクトは課題の根本解決を目指すため、目先の対症療法だけではなく、法令や制度の制定・改廃なども伴う、10年以上にわたることが当たり前の取り組みです。成果が目に見えにくいため徐々にやる気を失ったり、様々な社会環境や人間関係の変化により当初の思いどおりに進まないことの方が多いでしょう。プロジェクトに反対する人を説得し、プロジェクトの関係者のモチベーションを維持するといった、辛抱強く、泥臭い人間関係の構築に向けた不断の努力が必要なのです。

 

 

Profile

長浜 洋二

Yoji Nagahama

株式会社PubliCo 代表取締役CEO

鳥取県x日本財団地方創生プロジェクトアドバイザー/社会福祉法人日光市社会福祉協議会アドバイザー/社会福祉法人座間市社会福祉協議会アドバイザー/一般財団かわさき市民しきん評議員 / 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会専門アドバイザー / NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー

1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

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